最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)3263号 判決 1956年5月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人斎藤素雄の上告趣意第一点は違憲を主張するけれども、刑法二〇〇条の規定が憲法一四条に違反するものでないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところであるから論旨は採るを得ない(昭和二四年(れ)二一〇五号同二五年一〇月二五日大法廷判決集四巻、一〇号二一二六頁以下参照)。同第二点は判例違反を主張する。そして刑法二〇〇条の罪は犯人の身分により特に構成すべき犯罪ではなく単に卑属親たる身分あるがため特にその刑を加重するに過ぎないものであるから直系卑属でない共犯者に対しては刑法六五条二項によって処断すべきものと解するを相当とする。従って引用の判例はなお維持さるべきである。しかるに所論第一審判決は被告人星野愛子の所為は刑法二〇〇条六五条一項六〇条に該当する旨判示しているのであるからこの点においては違法の譏を免れ得ないけれども、同判決は結局被告人に対し刑法六五条二項を適用しているのであって、いまだこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。(のみならずこの点に関する所論は原審で控訴趣意として主張されず従って原審の判断を経ていないところであるから、元来上告理由として採るを得ないものなのである。)同第三点は単なる訴訟法違反の主張であり、(この点に関する原判示は首肯し得る。)同第四点は事実誤認の主張であり、同第五点は違憲をいうが、原審で主張せず、従ってその判断を経ていない第一審の訴訟法違反を当審ではじめて主張するものであるばかりでなく、所論公判調書の記載は公判手続の冒頭において裁判長が刑訴二九一条により被告人及び弁護人に対し被告事件について陳述する機会を与えたところ、被告人が任意になした陳述に過ぎないのであり、所論のように裁判長において証拠調前事件について被告人を尋問した形跡は記録上認められないから違憲の主張はその前提を欠き、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
よって同四〇八条により論旨第一点につき真野裁判官の少数意見がある外裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。真野裁判官の少数意見は昭和二五年(あ)二九二号事件同年一〇月一一日大法廷判決掲記のとおりである。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)